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2024/05/14

透明帯除去培養について解説【受精卵発育不良への治療法】

透明帯除去培養について解説【受精卵発育不良への治療法】

近年、受精はするもののその後の胚発生が著しく不良である症例に対する治療法として、『透明帯除去培養』が提案されています。透明帯を除去することで、今までほとんど胚盤胞へ成長しなかった方でも胚盤胞が得られ、その後の妊娠・出産が報告されています。

このコラムでは現役胚培養士 が、透明帯除去の方法や効果、当院で実施する場合の治療費について詳しく解説します。

目次
1. 透明帯ってなに?
  ①透明帯の構成
  ②透明帯の生体内での役割
  ③透明帯の体外での役割
2. 透明帯除去培養
  ①透明帯除去を行う理由
  ②透明帯除去の方法
  ③透明帯除去の安全性
3. 当院での透明帯除去培養について
  ①対象
  ②料金と実施個数
4. まとめ

 

1. 透明帯ってなに?

①透明帯の構成

まずは透明帯除去培養の前に、そもそも透明帯とは何なのでしょうか?

透明帯とは哺乳類の卵子を取り囲む糖タンパク質の細胞外マトリックスで、ヒトにおいてはZP1~ZP4の4つの糖タンパク質により構成され、これらが複雑に結合することで形成されています。

これらの透明帯を形成しているタンパク質は卵母細胞(≒卵子)により合成され、卵胞が成長するにつれて厚みを増し、成熟卵子ではヒトの場合で約20μmにまで厚くなります。


図1. ヒトの卵子と透明帯(→卵子 ▲透明帯)

②透明帯の生体内での役割

透明帯は卵母細胞と卵子の成長をサポートする卵丘細胞との結合を保持することで、卵母細胞の発育を促進します。

他にも、受精直後に透明帯を硬くすることで複数の精子の侵入を防いだり、胚が卵管や子宮内を移動する際に割球が散らばったり、上皮細胞に吸着されるのを防いだりしています。

生体内において透明帯は様々な機能を果たし、必要不可欠であるといえます。

③透明帯の体外での役割

透明帯の硬化による多精子受精の防御は、生体内と同様に体外でも透明帯は重要な働きがあります。

しかし、それ以外は体外では必要ではありません。
例えば、採卵時はすでに卵母細胞と卵丘細胞の結合は切断されていますし、胚盤胞まで成長すれば、胚移植時は直接的に子宮に挿入されますので、卵管内で散らばることもありません。

1つ効果があるとすれば、凍結融解時の障害から胚を守ることができますが、融解液の組成を考慮することで、透明帯除去された胚でも安全に融解することができることをこれまでに報告しています1)。

また、Well of the Well型培養dish (Linkid micro25)を用いることで、透明帯を除去した胚を効率的に胚盤胞まで成長できることも報告しています1)。

このように体外での胚の成長には透明帯は必須ではありません。

1)辻ら., 2018年日本受精着床学会雑誌


2. 透明帯除去培養

①透明帯除去を行う理由

受精後、受精卵と透明帯が癒着し、受精卵が分割する際に癒着部から大量のフラグメントと呼ばれる細胞質断片が発生することで、その後の成長が阻害され胚盤胞へ成長しにくくなることが報告されています2)

そのため、受精卵が分割する前に透明帯との癒着を剥すために透明帯を除去し、透明帯が完全にない状態で受精卵を培養することで、胚盤胞へ成長しやすくするという理由で透明帯除去を行います2)

2)Yumoto et al. J Assist Reprod Genet. 2020

 

②透明帯除去の方法

透明帯除去の方法にはいくつかの方法が存在します。

・透明帯にレーザーを用い大きな穴をあけ、細いピペットに出し入れすることで透明帯を物理的に剥離する方法

・酸や酵素を使って透明帯を化学的に溶かす方法

・透明帯に穴をあけ、培養液を吹きかけることで癒着を剥す方法

当院では3つ目の「透明帯に穴をあけ、培養液を吹きかけることで癒着を剥す方法」を採用しています。


詳しく説明すると・・・
1)受精確認後、分割する前に高浸透の液に受精卵を浸し収縮させる
2)レーザーを用いて透明帯の一部に穴をあける
3)透明帯に開けた穴から細いピペットを挿入し、癒着部に強く液を吹きかけ癒着を剥す
4)完全に透明帯から剥離させることで透明帯から胚を押し出す
という流れになります。

図2. 透明帯除去の方法

③透明帯除去の安全性

透明帯除去自体は危険な処理ではありません。また当院を含め多くの施設から、透明帯が欠如した卵子から産児が得られるという報告がありますので、基本的には透明帯を除去することでの悪影響はないと考えています。
しかし強固な癒着がある場合に、完全に剥しきれないことや、変性する場合があります。

なお胚発生過程でのフラグメントの出現は、受精卵と透明帯の癒着以外にも考えられますので、必ずしも透明帯除去培養で改善するわけではありません。


3. 当院での透明帯除去培養について

①対象

これまでのタイムラプス培養 にて受精卵と透明帯の癒着が指摘された方で胚盤胞への成長が著しく低い方、受精卵の成長過程に多量のフラグメントが出現し胚盤胞への成長が著しく低い方が対象になります。

また、他院でタイムラプス培養を行い、癒着の指摘があった場合などは、当院初回であっても透明帯除去培養の対象になります。

②料金と実施個数

透明帯除去培養に関連する治療はすべて自費診療となります。

透明帯除去培養は1個目が基本料金込みで20,000円(税込)となっており、2個目から1胚毎に10,000円(税込)となります。

実施個数は最大で10個までで、それ以上の受精卵がある場合は透明帯を除去せず通常の胚盤胞培養を行います。

しかし、透明帯除去培養で顕著な改善が見られた場合は、次周期以降は10個以上実施することも可能です。


4. まとめ

透明帯除去培養は未だ発展途上の技術ではありますが、胚発育が不良な症例に対する改善方法として期待されています。

一方で、発展途上が故に、どういった症例に効果があるのかなど明確な統一した見解がないのも事実です。

今後データを蓄積し、また情報収集を行い、動向を注視することが重要であると考えています。

もし、透明帯除去のご希望や、質問等ありましたら診察室で医師にお伝えください。

 

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