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2024/06/17

体外受精と顕微授精の違い

体外受精と顕微授精の違い

不妊治療をステップアップしていくと、体外で卵子と精子を受精させる体外受精(IVF:in vitro fertilization)というステップがあります。方法としては、体外受精(c-IVF)と顕微授精(ICSI)がありますがどちらも「体外で受精させる」ことには変わりありません。では何が違うのでしょうか。

【目次】
1. 体外受精
 ① 受精方法
 ② 精子の影響
 ③ メリットとデメリット
2. 顕微授精
 ① 受精方法
 ② 精子の影響
 ③ メリットとデメリット
3. 体外受精と顕微授精の成績・予後
4. まとめ

 

1.体外受精

 

 

 

① 受精方法

体外受精(c-IVF )はConventional(従来の、慣習的な)なIVFという意味であり、ふりかけ法による受精方法を言います。

ふりかけ法とは、採卵後の卵子を培養している培養液内に調整した精液を入れることによって受精させる方法です。受精するためには精子が自分の推進力のみで卵子を覆う顆粒膜細胞や卵丘細胞を通過し卵子まで到達しなければなりません。

このように、体外での操作ではあるものの卵丘細胞や透明帯の通過、卵子細胞膜と精子細胞膜の融合、精子の卵細胞質への侵入などの受精へ至る各過程は体内での現象と同様に行われます。

② 精子の影響

精子の運動能力 に受精結果が左右される受精方法のため、当院では精液処理後の運動精子濃度が100万/ml以上ある症例に体外受精を実施しています。精液所見が実施基準以下の症例や男性不妊のオペ (TESE,MESA,ReVSA)を実施された方、凍結精子を使用する方については後述の顕微授精が適用となります。

また、女性が 精子不動化抗体 をもっていると、もともと運動していた精子も卵子との相互作用により不動化してしまう可能性があり、こちらも顕微授精適用となります。

③ メリットとデメリット

一般不妊治療に比べると体内で引きおこる様々な不妊因子をバイパスするため、タイミング法や人工授精において結果の出なかった方に対して有効な治療といえます。
特殊な機材がなくとも実施しやすいため多くの施設で取り入れられています。

しかし、体外受精では精子が卵子に侵入する過程で人の手は介入しません。そのため精子の運動能が低い、精子不動化抗体の影響、その他の原因不明な因子による「精子が卵子内に侵入できない」ことについて改善させることはできません。

つまり、直接精子を卵子内に注入する顕微授精と比べ、1つも受精卵が得られない「完全不受精」を引き起こしてしまうリスクが高くなります。そのため当院での自費診療においては基本的に顕微授精を併用するsplit方式を採用しています。

 

2.顕微授精

① 受精方法

顕微授精(ICSI : intracytoplasmic sperm injection)では、卵巣から採取した卵子に対して精子を直接注入して受精させます。1992年ベルギーにて世界で初めて顕微授精による妊娠出産例が報告され、そこから世界中で発展していった受精方法です。
ちなみに日本で最初の精巣内精子を用いたICSI(TESE-ICSI)による妊娠・出産例は当院の院長浅田義正が顕微授精を行いました。

採卵した卵子に付着している卵丘細胞を除去し、透明帯と卵子細胞質のみになった状態の卵子に対して精子を1つ注入し受精させます。

② 精子の影響

顕微授精では体外受精と違い1つの精子があれば受精操作をすることができるため、、精液所見が厳しく精子の少ない症例に対して有効な受精方法です。また、精子数が多くとも不受精の多いような「受精障害」のある症例に対しても、精子が卵子に侵入するステップをバイパスできるこの技術によって受精率の上昇が期待できます。従って、体外受精では結果がでない場合に次のステップとして実施する場合があります。

③ メリットとデメリット

精子を卵子に直接注入するため、精子の運動性や精子不動化抗体に関係なく施行できます。受精率が低い症例に対しては卵子活性化などを併用することも可能 です。

施行する際には精子を保持した針を卵子に穿刺するため卵子に対する侵襲性が高く、膜の強度が低い卵子では変性してしまう可能性もあります。

基本的にミクロの世界の技術ですので、その技術力が結果に大きく影響します。


3.体外受精と顕微授精の成績・予後

当院では、体外受精の正常受精率は約65~70%、顕微授精の正常受精率は80%以上となっています。日本産科婦人科学会の報告によると移植あたりの妊娠率は体外受精23.6%、顕微授精18.8%となっており、妊娠あたりの流産率はそれぞれ24.6%、25.0%です 1)

自然妊娠による出生児に比べ生殖補助医療(ART)由来の出生児は先天異常が多いのではとの懸念があるかと思いますが、実際に統計的にもやや高いという報告はあるものの、患者の年齢などの背景が関係しており、体外受精や顕微授精などのART手技によるところではないとされています 2)
1) 令和4年度臨床倫理監理委員会 登録・調査小委員会報告
2) 生殖補助医療(ART)胚培養の理論と実際 日本卵子学会著


4.まとめ

顕微授精の様子

体外受精(c-IVF)の受精方法は体内で起こる受精機構と似ており、より自然に近いといえます。しかし精子の少ない方や受精障害のある方にとっては顕微授精の技術は妊娠への唯一の手段となるかもしれません。

体外受精は数個の卵子をまとめて受精操作することができますが、顕微授精は卵子1つずつに受精操作を実施しなければならず、特殊な機材や高度な技術も必要とすることから一般的に費用が上がります。

当院の保険診療では基本的には体外受精を実施し、精液所見や体外受精の成績次第では顕微授精も実施しております。保険診療では結果が出ない場合には自費診療や着床前遺伝学的検査(PGT-A、PGT-SR、PGT-M)、先進医療検査を案内することもできますのでご相談ください。

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